会長挨拶

第19回日本慢性看護学会
大会長 内海 香子
岩手県立大学看護学部

 このたび、日本慢性看護学会学術集会を2025年9月6日、7日に開催させていただくことになりました。

 第19回学術集会では、大会テーマを“Multimorbidity(多疾患併存状態)と生きる人々への支援“といたしました。Multimorbidity(多疾患併存状態)とは、一人の人が複数の慢性疾患や慢性的な症状や状態をもつことです。

 これまでの慢性疾患をもつ人や家族の看護研究や実践報告は、1つの慢性疾患に焦点をあてたものが多く、私達はこのような研究や実践報告から学びを得て、慢性疾患をもつ人や家族への支援を実践してきました。しかし、慢性疾患をもつ人は、複数の慢性疾患や慢性的な状態を持っていることが多いのが現状です。それぞれの慢性疾患には、機能障害に応じた身体を整えるために必要な自己管理があり、その内容が類似している慢性疾患もあれば、矛盾するものもあります。専門分化された医療において、慢性疾患をもつ人が複数の慢性疾患の自己管理を統合して生活をしており、様々な困難を抱えています。

 一方、海外でもMultimorbidityをもつ人が増えており、支援の難しさから、「1つの疾患を対象としたケアモデルでのかかわりに限界がある」ことが指摘され、Multimorbidityをもつ人への適したケアについて研究がされています。

 また、私たち看護者自身も、加齢や病いにより「支援を受ける」立場になる可能性があります。

 そこで、本学術集会では、Multimorbidityと生きる人々への支援について、「支援をする」という立場からだけではなく、自分事として、よりよい支援を皆様と考える機会にしたいと思いました。

 学術集会の基調講演では、Multimorbidityと生きる人への医療に造詣の深い大浦 誠先生に、「総合診療医によるマルチモビディティの診療とケア」と題してご講演をいただきます。

 教育講演では、マルチモビディティをもつ人の理解に役立つように、音喜多 信博先生に「(仮)現象学的看護論とケアの倫理」、坂井 志織先生に「自覚症状のない複数の疾患と長期間付き合う経験ー現象学的研究に根ざした理解と実践の可能性」、河井 伸子先生に「慢性疾患と連続性」、牛久保 美津子先生に「複数の疾患をかかえて生きる神経難病療養者のケア」と題してご講演をお願いしました。マルチモビディティをもつ人々への支援では、多職種による協働が重要になることから、「マルチモビディティと生きる人々への多職種連携による支援」というテーマのシンポジウムを企画しています。

 また、令和6年能登半島地震がおこり、慢性疾患を持つ人自身の災害への備えや、看護師が基本的な災害時の看護の知識を持つことの重要性を改めて感じました。そこで、災害時の慢性疾患をもつ人への看護をテーマに特別講演とシンポジウムを企画しました。特別講演は、石井美恵子先生に「(仮)災害医療と慢性看護」と題してご講演いただきます。また関連するシンポジウムとして、「慢性疾患をもつ人々への災害支援の経験とその後の対策」を企画しています。

 盛岡市をはじめ岩手県は豊かな自然に恵まれた土地です。学術集会会場にご来場の皆様には、豊かな自然が作り出す景色や味覚もお楽しみいただけますと幸甚です。

 本学術集会への皆様のご参加をお待ちしています。